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最高裁判所第一小法廷 昭和38年(オ)987号 判決 1966年4月07日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人吉永多賀誠、同大崎康博の上告理由第一点、第二点について。

所論の点に関する原判決およびその引用する第一審判決の事実認定は、挙示の証拠により是認でき、その間所論の違法は認められず、また、右事実関係の下においては、小林源治に過失があつた旨の原審の判断は相当である。所論は、事実審の裁量に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、または事実審の認定と相容れない事実を前提として原判決の違法をいうものであつて、採るを得ない。

同第三点について。

国の公務員であつた者が一定期間勤務した後退職したことを要件として支給を受ける普通恩給は、当該恩給権者に対して損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするものであるとともに、その者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても、同一の機能を営むものと認められる。そして、恩給を受けていた者が死亡したときには、これにより生計を維持し、または、これと生計を共にしていた一定の遺族に扶助料が支給されるが、右扶助料は右遺族に対する損失補償ないし生活保障の目的をもつて給付されるものであることは明らかである。このように、恩給権者固有の恩給と遺族の扶助料の両者が、当該遺族について、その目的あるいは機能を同じくすることを考えると、恩給を受けている者が、他人の不法行為によつて死亡し、これによつて被つた財産的損害の中に、その者がなお生存すべかりし期間内に取得すべき恩給受給利益を喪失した損害が計上されており、右財産的損害賠償債権の全部もしくは一部が、相続により、一相続人に承継された場合において、右相続人が、他方において、前記恩給受給者の死亡により、扶助料の支給を受ける権利を取得したときは、右相続人の請求できる財産的損害賠償額の算定にあたり、右損害賠償債権の中の恩給受給の利益に関する部分は、右扶助料額の限度において、当然、減縮しなければならないと解するのが相当である。けだし、このように解することが、同一目的の給付の二重取りを許すにも等しい結果の不合理を避け得る所以であるとともに、不法行為に基づく損害賠償額の範囲を定めるにあたり依拠すべき衡平の理念に適合するからである。本件において、原判決によれば、小林源治の死亡により上告人小林ハツが相続した財産的損害賠償債権中には七万三、〇五三円の恩給受給利益喪失の損害賠償額が含まれているというのであるから、右債権額から同上告人の受領した原判示同額の扶助料の額を差し引き、その差額をもつて同上告人の請求できる財産的損害賠償の額であるとした原審の判断は正当であつて、所論の違法はない。所論は採用できない。

同第四点について。

本件慰藉料の算定につき被上告人の資産状態を斟酌した原審の判断は正当であり、これと異なる論旨は採るを得ない。原判決には所論の違法は存しない。所論引用の判例は、本件に適切でない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠)

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